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皆が帰り、店には私と優馬二人だけが残って、カウンターで肩を並べてお酒を飲んでいた。
「おめでとう、杏樹」
「ありがとう」
この日、何度目かもはや数えることができないくらい交わした言葉と乾杯を、優馬は飽きもせずに繰り返す。
面倒くさい酔っ払いだと思いつつも、私も笑顔で何度目かの乾杯を交わす。
もしかしたら、私もけっこう酔っているのかもしれない。
「やっぱりね、あんたは只者じゃないと思ってたのよ。賞を取るなんて凄いわ」
「だから何度も言ったように、地方の小さな賞なの。
この賞を取ったところで、洵のように一躍有名になれるわけでもなければ、絵の仕事が貰えるわけでもない。
私の人生を賭けた渾身の一作は、地方の小さな賞止まり。これが私の実力」
優馬は酔って少し座った目で納得いかない顔で私を睨みつけた。
「あんたね、小さな賞っていうけど、その小さな賞ですら貰えない人間が沢山いるのよ。
応募者全員が貰えるわけじゃないでしょ。
落選して落ち込んでる人間だって絶対いるはずなのよ。
それに私は小さい頃から賞なんて一度も貰ったことない。
失礼よあんた、私に」
「実は、私も賞貰ったの初めてなの」
小さい頃から絵を描くのは好きだった。
でも面倒くさがり屋で何かに応募したりすることはなかったし、専門学校に行ったら皆のレベルが高すぎて、私は一度も賞を取ることができなかった。
だから今回の受賞は、小さな賞と自分で言っているけれど、とても嬉しかった。
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