294人が本棚に入れています
本棚に追加
/29ページ
「杏樹っ」
人ごみの中、私を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、ジャケット姿の優馬が軽く手を振って佇んでいた。
お店の制服姿ではない優馬を見るのはこれが初めてで、新鮮なかんじがした。
優馬の見た目は普通の男の人と変わらないし、言うなら普通の男の人よりもワイルドでかっこいいくらいだ。
「ああ良かった、会えて。この人ごみの中だから、優馬を見つけられないんじゃないかと思って焦ってたところよ」
私が優馬に駆け寄ると、優馬は苦笑いをしていた。
「私はすぐにあんたを見つけられたわよ。なにそのサングラス。セレブぶってるの? それとも芸能人の真似?」
「これは……変装っていうか、バレないようにっていうか……」
私は掛けていた大きめのサングラスを指先で弄りながら、口を小さくすぼめながら言葉を濁した。
「はあ? なんのために。」
「洵によ……」
言葉尻を消え入るように言った私に対して、優馬は大きな口を開けて笑った。
「心配しなくても、この大人数の観客の中からあんたを見つけ出すことなんて不可能よ。それに、あんためちゃくちゃ目立ってたわよ。逆効果、悪目立ちしてる」
私は口を尖らせて、乱暴にサングラスを外した。
確かにさっきから視線が気になるなと思ってたけど、悪目立ちしてるとは思わなかった。
「まあいいわ、早く中に入りましょ」
優馬は人ごみの中を優馬はスタスタと歩いていってしまった。
私は、楽しみなような不安なような逃げ出したいような様々な感情と葛藤しながら、下を向いて優馬の背中を追いかけた。
最初のコメントを投稿しよう!