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洵を見てしまったら、ここがどこかとか全て忘れて駆け寄ってしまうんじゃないか。
それとも、好きが溢れすぎて胸が苦しくなって、演奏中だというのに会場から走って逃げだしてしまうんじゃないか。
気持ちを押し殺して応援すると決めたのに、今からこれじゃ先が思いやれる。
まだ洵の姿を見ていないのに、パンフレットに載っている洵の写真を見ただけで目頭が熱くなった。
私はまだこんなにも洵が好きだったのかと、自分の気持ちに愕然とした。
洵の姿を見てしまったら、私は後悔するかもしれない。
洵についていかなかったことを。
もう洵は一年前の洵じゃない。
洵にとって私はもう特別な存在ではないだろう。
洵は一人でも立派に成功を収めた。
私の存在は必要ない、むしろ邪魔だった。
だから、洵についていかなくて正解だったんだ。
私は洵を遠くから見つめて応援するだけの存在であるのが丁度いい。
そう思っていても、どこかで何かを期待してしまう自分の気持ちを押し止めた。
洵が私に気付くなんて奇跡だ。
そんな奇跡、あってはいけない。
私と洵は、この距離感が丁度いい。
ステージ上と、後ろの方の座席。
きっとこれが私たちのハッピーエンド。
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