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力強い音が鳴り響く。
その一音を聴いただけで鳥肌が立った。
曲目は『革命のエチュード』
洵が好んでいつも最初に弾いていた曲だ。
左手が波打つように速いパッセージを奏でながら、右手は叩きつけるような激しいフォルティッシモを刻む。
息つく暇を与えないほど情熱的な革命のエチュードだった。
洵はどこまで成長するんだろうと思うくらい、演奏に磨きがかかっていた。
演奏技術もさることながら、観客を楽しませる見せ方も学んだようだ。
手を高く上げたり、鍵盤に顔を近付けたり、身体全体で革命を表現している。
洵が魅せる世界観に観客たちは酔いしれる。
私も足の震えがいつの間にか治まり、洵の演奏に全ての五感を研ぎ澄まし聴き入っていた。
演奏が終わると、再び割れんばかりの拍手が巻き起こった。
フィナーレのような盛り上がりに、洵自身も驚いているようだった。
私も両手が痛くなるくらい強く手を叩いた。
おめでとう、おめでとう洵。
夢を叶えたのね。
とてもかっこ良かった。
届かない言葉を胸の中で何度も伝える。
すると、優馬が目を赤くして興奮した様子で私の方に振り返った。
そして私の顔を見た優馬は、顔を崩して目頭を押さえた。
「もうやめてよ。あんたの涙見たら私までウルっときちゃうじゃない」
……涙?
言われて初めて自分が泣いていたことに気が付いた。
頬が濡れている。
こんなに自然に涙を流していた自分に驚いた。
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