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優馬にハンカチを渡されたものの、優馬の言葉の矛盾を感じていた私は素直にありがとうと言えなかった。
優馬は私の顔を見る前から目が赤かったくせに、しれっと人のせいにしたのだ。
ハンカチを私に渡した優馬はティッシュで豪快に鼻を噛んでいた。
その姿を見ていたら、まあいいかという気になってハンカチで涙を拭った。
洵はそれから、貴婦人のノクターン、幻想即興曲、華麗なる大円舞曲を立て続けに弾いた。
今回のコンサートは、洵のショパンコンクール入賞を記念してオールショパンで構成されている。
ショパンコンクールが終わった後、洵はあえてショパンを封印して様々な作曲家に挑戦していた。
だから、公の場で洵がショパンを弾くのは一年ぶりだ。
聞き慣れたショパンの音色は、とても心地が良かった。
観客が洵のピアノの音色にうっとりと聞き惚れている。
洵の横顔はとても綺麗で、醸し出される雰囲気は色っぽく、みんな洵の虜になってしまったに違いない。
厄介な男を好きになってしまったものだと心の内で自嘲した。
どんなに忘れたくても、きっと洵のピアノを聴いてしまったら、私はまた洵に恋をする。
何度も何度も恋をして、どんどん深く好きになっていく。
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