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彼の腕を自分の肩に回し、身体を支えながらゆっくりとペンションへ歩き始めた。
「……変なヤツ。自分を脅してる男を気遣うのか?」
「怪我人を放っておけない。」
それ以降、口を閉じた。
ペンションへ戻るまで、考える時間は山ほどあった。
人が遠退いたペンション周辺に現れた手負いの男。
多分、この人は知っている。
この山で何が起きているのか、そして、怪奇現象の理由。
そうじゃなきゃ、こんな大怪我したのに病院も警察も連絡するななんておかしい。
(事件の臭いがプンプンする!)
「…ほら。ベッドに寝て。水と薬持ってきてあげる。」
「部屋は間接照明だけにしろ。他は点けるな。」
「……了解。…はい。お望みの身分証。」
ペンションに着くと、R出版のIDをベッドに投げ、部屋の奥にあった救急箱を持っていく。
洗面器にお湯を入れ、フェイスタオルを濡らして固く絞り、傷口の周りの血を拭う。
それが終わると、ガーゼに浸した消毒液を傷口に当て、血を完全に拭い終わって見えた傷口。
「…これ…銃で撃たれたの?」
「…ご名答。」
どうやら事件の可能性大。
この人は、その渦中にいる人物なんだろう。
……そして気付く。
背中は無傷。つまり、銃弾は体内にある。
「…消毒液が足りない。私、山降りて買ってくる。」
「ダメだ!ここにいろ。通報されちゃたまったもんじゃない。」
「…通報もしないし、ちゃんとここに戻ってくるよ。」
「…だったら俺も行く。」
「…怪我した動物って、癒えるまでジッと寝て回復を待つものなんだよ?人間も同じ。動かない方が治りが早い。」
「……………」
「私は携帯と財布と免許証だけ持って降りる。残していくものは、私の命とも言えるものばかりだよ。これで戻らない方がバカだって。」
渋る彼を説得し、明朝山を降りて街に向かった。
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