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残りのビーフシチューをペロリと平らげたところを見れば、結構食べる人だ。
少し多目に作っておいてもなくなるだろう。
(大食いの人は米とスープに限るよな)
玉子スープと唐揚げとサラダ、そしてパックのご飯6つすべて使って炒飯を作り、ベッドまで運ぶ。
「起きれますか?」
「…ああ。」
ゆっくり起き上がった川崎は、ベッドの壁を背凭れにして座り、トレイごと渡したご飯を食べ始めた。
「…………美味い。」
一言呟いたそれに、一瞬驚いた。
感情を示す言葉など自ら使った試しがなかったから。
「ありがとう。おかわりもありますから、いっぱい食べてください。」
「…お前は?」
「向こうで食べます。…その前にやることがありますから先に済ませちゃいます。」
タイヤ跡があったということは、私がここに滞在していると知られた。
しかし、身動きの取れない現状で、正体不明の男を匿っているという事実を知られると、更なる厄介事になりそう。
向こう側から近付いてくるには、自分一人であるということを印象付けなければ。
そのためにこの人の存在を知られてはいけない。
「……何してる?」
「目隠しです。」
「何のために?」
「あなたのため。」
窓のカーテンを広げると、隙間が出来ないように画鋲で壁に押し付け、カーテンの真ん中の隙間を安全ピンで開かないようにする。
部屋のすべての窓にそうして、外から中が覗けないようにバリケードを張る。
「…お前…何者なんだよ。本当に。」
「ただの記者です。……ただの。」
「……………」
「よし。これでいいや。私もご飯食べよう。…おかわりはいいですか?」
「…頼む。」
渡されたのは皿とスープカップ。
米一粒残さずに食べてくれるとは。ちょっと嬉しい誤算。
おまけの唐揚げもつけて持っていくと、ちょっと笑顔になった。
得体の知れない男相手だから十分注意はしているが、こういうところを見れば少し心が和らぐ。
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