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それは、想像とは違って、とても優しいキスだった。
* * *
満月のせいだったんだと思う。
夜が漆黒ではなく蒼く見えた。
私は明かりを消した部屋でうずくまり、窓から見える夜空をぼんやりと眺めていた。
一之瀬優花(いちのせ ゆうか)、それが私の名前。
意気地無しの嫌われ者。
高校でいじめにあっている。
最っ低のプロフィール。
……最低にみじめな私。
「哀しい匂いがするわね」
突然の声に驚いて、私は大きく体を跳ねあげた。
「そんなに驚かないでって言っても、驚くわよね」
声はそう続けて、クスリと笑った。
私は恐怖で声が出ないまま、声のした方へ、ぎこちなく顔を向けた。
ハッとした。
月明かりだけが光源となっている薄暗いこの部屋に、女性が立っていた。
それも金髪の美女。
混乱はしたが、恐怖心は消えた。
彼女はあまりにも美しく、幽霊らしさも泥棒らしさも、おおよそ怖さを感じさせる物を持ち合わせてはいなかった。
とは言え、部屋に突然現れた侵入者である事に間違いはない。
「だ、誰ですか? どうやってここに?」
私は混乱を解消すべく言葉を並べた。
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