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私の心臓がドキンと跳ねた。
彼女が吸血鬼なら、私は彼女の獲物に過ぎない。
彼女の目的は私の血……。
それはつまり、命という事?
……それもいいかもしれない。そう思ってしまう自分が悲しい。
「私はね、本人の許可を得て血を頂くの。だから私が好んで吸うのは哀しみに満ちた血。そう言う血の持ち主は大体、私を受け入れるわ。弱ってるところを狙う、セコいナンパ術ね」
「そんな血、私の血なんて、美味しいの?」
「だから好みの問題よ。私は好き。少し苦いのだけど、深い味わいがあるわ。きっと表に出せなかった魂の叫びが濃縮されてるのよ」
「…………」
「辛いの?」
彼女の問い掛けに、私はコクリと頷いた。その途端、私の中で緊張の糸が切れたらしい。
私は涙を溢れさせ、彼女にすがって泣いていた。
誰にも言えなかった。
誰にも助けを求められなかった。
誰にもすがれなかった。
今、私は出会ったばかりの素性も知れぬ吸血鬼と語る女性にすがりついている。
「私が話を聞くわ。そして、あなたを拐っていく」
彼女の顔が近付き、冷たく白い手が私の頬に触れる。
そうして彼女はゆっくりと私の唇に自らの唇を重ねた。
驚く私。
顔が熱くなる。
「吸血鬼は首筋にしかキスしないわけじゃないのよ」
優しいキスの後、彼女は今度こそ、私の首筋に牙を刺した。
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