7人が本棚に入れています
本棚に追加
* * *
カミーラの手首から溢れる血を私は貪るように飲む。彼女の手首に口を付け、細く白い腕に絡み付くようにして。
私、一之瀬優花が吸血鬼になって5年が過ぎようとしていた。
私はカミーラと世界中を旅した。
2人で何度も美しい景色を見た。
都会の夜景も深い山からの満点の星空も。
まるで夜の支配者になったような、そんな夜を何度も飛び越えた。
でも、私はまだ一度も人間から血を吸った事はない。
私はいつも、カミーラから血を貰う事で渇きを癒していた。
「優花、飲み過ぎよ。私が貧血になっちゃうわ」
カミーラが私の口を手首から離した。
私は少し名残惜しそうにカミーラを見つめる。
カミーラがクスリと笑う。
5年前と変わらない笑顔。
「口の周りについてる」
そう言うと、カミーラが私の口の端を手で拭って、それから唇を近付けてきた。
血の味がするキスだけは昔よりも濃厚になった。
* * *
「ねえ、優花。懐かしい?」
カミーラと私が見下ろす町は、以前、私が人間として暮らしていた町。
「……少しだけ」
懐かしくないと言えば嘘になるが、辛い思い出が甦る町を懐かしみたくない気持ちがどこかにある。
それでも私は家族の事を思った。
考えてみたら、人生を左右するあんな大きな決断を一夜にしてよく行えたものだ。
人間をやめて吸血鬼になる。
初めて出会った謎の女性に付いていってしまうなんて……。
お父さんとお母さんはどうしたのだろうか?
今、どうしているのだろうか?
私はとんでもない決断をしたのだ。
「今日でね、あなたと出会って5年になるわ」
町を眺めながら懺悔する私の耳にカミーラの声が聞こえた。
それでカミーラは私をこの町に連れて来たのだろうか?
「だから、あなたとお別れをしようと思うの」
「えっ……」
「今日、あなたは人間の血を自分で飲みなさい。そして、私とさよならをするの」
「……どうして!?」
「吸血鬼の巣立ちよ」
「い、いやだ! 私はカミーラと居たい!」
最初のコメントを投稿しよう!