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ラグの上に横向きに寝そべる咲子の背中側で、私もうつらうつらとしていたのだけれど。
「咲子?」
飲んで燥いで、お酒に弱い咲子はすっかり熟睡してしまったようだった。
「風邪ひくよ」
彼女のサラサラの後ろ髪を見ながら、そう声をかけたけれど、返事は変わらず規則的な寝息だけだった。
上半身を起き上がらせて、彼女の顔を覗き込む。
まだお酒の名残で赤く染まっている肌とふわりと香るアルコールの匂い。
何度声をかけても睫毛も震えない。
「咲子」
高校の頃、一度だけ戯れに触れた唇が忘れられないと言ったら
あなたは私を気持ち悪いと思うだろうか。
最後まで無防備な貴女が明日いなくなると思うと
少しほっとする。
だけど、最後だから。
これが、最後だから。
だからこそ、抗えない衝動に襲われる。
その唇に、もう一度だけ重ねたい。
でも、だめ。
目を覚ますに決まってる。
その、柔らかな頬になら?
だめだ。
万一目を覚ましたら。
咲子の視界にそんな私の姿を映してはいけない。
咲子。
声に成らない、唇だけで名前を呼んだ。
横たわる彼女の背中側に静かに寝そべり寄り添うと、細く長い髪を手に取った。
咲子。
バレたら最後。
この想いは、知られてはいけない。
静かに、静かに持ち上げて
その髪の先にキスをした。
艶やかな感触が、唇に残る。
鼻孔を擽る、シャンプーの香りは私と同じ。
明日からは、別の香りに包まれる
貴女を最後まで親友として見送るために
こんな私に、気が付かないで。
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