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「ぐ、ぐへへへ。やばい。やばいよぅ。三鷹(ミタカ)様ヤバイよおおお!」
下卑た笑いに鼻血。
綾音(アヤネ)の前に座る漫画の世界に浸る友里(ユリ)の鼻からポタポトと落ちる赤色。
口からは、少しばかり涎も垂れ始めている。
なんで、こんなに変態じみたことを平気でやってのけるのか。
綾音は、半目で友里を見ながらそんなことを思った。
放課後の教室で、机を引っ付けて座り。
彼女たちは真っ白のノートにそれぞれ漫画を描いていたのだけれど……自分が描くオリジナル漫画の展開に根詰まったらしい友里は、先程からずっとこんな調子だ。
「垂れてる、垂れてる。友里、ノートが赤くなってるよ」
とにかく、鼻血は止まる気配がない。
貧血気味の友里は、こんなところで献血に持ってこいな綺麗な赤を無駄に出しているのだから……朝礼で倒れる前に、その鼻血をどうにかするべきだと綾音は他人事のように思っていた。
「ぐへ。もう、ヤバイんですけどお! 三鷹様。ああ、三鷹様。なんでそんなに加虐的なのお!
けしからん、もっと勇者を虐めてしまえっ!」
「…………」
聞いてない。友里は、まったく綾音の声を聞いていない。
それどころか、漫画を片手に持ったまま、赤く染まるノートに空いた片手でペンを持ち絵を描き出した。
動くその手は、まるで真剣さがないのだけれど。丁寧とは言えない雑な動きをしていながらも、描かれるのは裸体の綺麗な男。
そして、それが二人。
足を絡み合わせ、首に舌を這わせようとするその様を描く彼女の視線は……漫画にしか向いてない。
これが、彼女の才能なんだ。無駄な。
綾音は、口から息を吐き出した。
仮にも、目の前の変態じみた女は、自分が付き合っている女であって。親友の域など一年で超してしまった相手。
何が好きで、こんな変態を愛しているのか。
自分に向けた疑問に綾音の眉間に、自然と皺が出来た。
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