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MY DOLL
「ねえ、環ちゃん。何見てるの?」
いつの間に後ろにいたのか、美月が私の左肩の上から顔を覗かせた。
びっくりして振り返ろうとした私を押さえ込むみたいに、美月は私の肩に頭を預け頬を摺り寄せる。
「ねえ、くすぐったいよ」
美月のふわふわとした髪が頬をくすぐる。でもそれ以上にくすぐったく感じるのは脳を揺らすような甘いキャンディのような香り。
ふふっと悪戯でも思い付いたように美月は笑みを浮かべると、桜色のグロスが艶めく小さな唇で私の耳に囁きかけた。
「環ちゃん、当ててみてもいい?」
いつも5限目の授業のあと、私は新校舎の二階の教室から渡り廊下を見る。美術室や音楽室などの特別教室が残る、旧校舎へと続く渡り廊下を歩いていく美術教師を見るために。
美術教師の桐嶋は、渡り廊下の途中で物憂げな表情をして立ち止まると、必ず新校舎の窓を見上げてから、頬を緩める。
桐嶋の見ているのは私じゃなく、私の横から顔を覗かせる美月だ。
美月は私が桐嶋を見ていることに気づきながら、わざと隣に来て目隠しをしたり話しかけて私の気を逸らそうとする。
「何を当てるの?」
「ねえ環ちゃん、二人の間に秘密はないって約束したよね」
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