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中学の初めに隣の家に越してきた美月は、母親と一緒に挨拶に来るとにっこり微笑みながら手を差し出した。
美月から漂うのは、私の周りの女の子たちとは全く異なる甘い香りだった。栗色の髪はふわふわと柔らかそうで、透るほどに白い肌や華奢な手足は触ったら折れてしまいそうに思える。
人形みたいだ――――美月を初めて見た時、そう思ったのを私は5年経った今でも鮮烈に覚えている。
見とれて立ち尽くす私をくすくす笑いながらハグをすると、美月は耳元で囁いた。
「ねえ、環ちゃんってとっても可愛い」
噂好きな母が掴んでくる情報から海外帰りだというのは聞かされていたけれど、ハグなんてしたことのなかった私は、美月から伝わる柔らかい感触と甘い香りから自分の中に沸きあがってくる感情が怖くて、彼女を突き飛ばして逃げた。
後ろから母の怒るような声が聞こえて来た気がするけれど、どこか遠くで聞こえているように思えて私はそのまま走り続けた。
浮かんでくる私の頭を混乱させるイメージは、息を切らして座りこむほど走っても消える事がない。
見たばかりの美月の白い肌に、引っ掻いたような細い線が次々と浮かび上がる。赤い血がじわじわと滲み出し、それに私はゾクリとする快感を覚えた。
――――壊したい、傷つけてしまいたい。これは私のものだ。
私は知っている、この恐ろしくも甘いとても心地の良い感覚を。
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