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小さい頃、着せ替え人形が好きだった。細くて長い華奢な手足に綺麗な髪。誘うように微笑みかける表情が私を夢中にさせる。
人形に強く興味を示す私に大人たちは沢山の人形と洋服を与えた。私はそれらを見ているだけで胸がドキドキした。
でも、同時にいつも不安で仕方がなかった。こんなに綺麗なんだから誰かに盗られてしまうんじゃないかと。
爪で引っ掻いて細い傷をつけたのが初めだった。塩化ビニルの白い肌にうっすらと消えない傷のついた人形を見て、私はとても安心したのを覚えている。
その傷のついた人形は、今までよりももっと愛おしく思えた。
これで完全に私のモノだ。もう誰も取らない、綺麗な人形じゃないもの。
初めは気に留めなかった大人たちも、私が故意に人形に傷をつけている事に気づき、怒ったり顔を顰めるようになった。
意地悪な子になるんじゃないかと特に不安がった母は、そんなに人形が嫌いならと知らない誰かに私の大切な人形を全てあげてしまった。
大人たちは酷く泣く私を見て、大切にしなかった事を反省したと思ったのかもしれない。でも、そうじゃない。私の大切な人形に誰かが触れているのが悲しく、人形を取り上げた母が許せなかっただけだ。
でも私の周りから人形は完全に姿を消し、私もいつしかその事を忘れた。
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