第1章

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「この人を知ってますか?」 刑事は僕に聞いた。 どう答えるのがいいのだろう。テレビのニュースで、ゆりの死体が見つかったのを観た。そして、幸いなことに確か田中だったか、そんな名前の殺人犯が殺したことになっていた。 それにゆりの葬式にも行ったと思う。どうもこの辺の記憶がはっきりしない。意図的にゆりのことを忘れようとした結果なのだろうか。 ただ、ゆりが死んでいるのなら、ここにいるのはどんなにゆりに似ていたとしても、ゆりではなく赤の他人だ。つまりは知らないとなる。 でも、ゆりのこれまでを考えるとゆりとしか思えない。けれど、誰がそんなことを信じるものか。それに下手なことを言えば、あの時のことがバレてしまうかもしれない。 「わかりません」 そうとだけ伝えた。 「そうですか。例えば、彼女さんの友達だとか、そう言う人にも心当たりはないですか?」 「さぁ、彼女の友達に会うのは、ほとんどなかったので」 「わからないか・・・」 刑事は何かを言いたそうだったが、気にせずにいた。 「それより、あさみはどこに行ったんですか?」 「それは今捜索中です。この彼女が何か知ってるとは思うんですが、こうなってしまっては何も聞けないですからね」 刑事は丁寧に答えてくれた。さっきまでの感じ悪さはない。いや、もしかしたら、ゆりの事を気にしすぎていたから、この刑事が感じ悪く思えたのかもしれない。けど、こうしてゆりじゃないと思えたから、思ってもらえたから、なんとなくそう感じてしまうのだろう。 僕は立ち上がった。 「あの・・・」 「なんでしょう?」 「あさみのこと、わかったら連絡してもらえますか?」 「もちろんです」 刑事は言った。 けれども、刑事から連絡が来ることはなかった。ずっと・・・
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