3人が本棚に入れています
本棚に追加
カツカツと靴音が響く中、すれ違う人達が男に会釈するのを横目に男は酷く焦っていた。
たどり着いた重厚な扉の取手を掴むと、
遠慮なく開け放つ。
日頃では思いもしないその行動に、側に控えていた執事が瞳を見開いていた。
「父上、母上!!...ご無事でしたか」
「何事だい?アルバート」
「あらあら、貴方がそんなに焦るなんて、何かあったのかしら?」
突然の息子の帰宅に驚きながらも、お茶をしていた二人は快く出迎えた。
テーブルを挟んで向い合って座っている二人に異常は見られず、アルバートはホッと一息つくことができた。
「いえ、こちらから魔力を感じたものですから」
のほほんとした雰囲気を醸しだす二人に、アルバートは苦笑いしながら答える。
が、次いではっとしたように何かに気付くと再び焦りを見せた。
「シェリーは?」
「あら、そう言えば今日は一度も見てないわね」
母のその言葉を聞くと、アルバートは再び急ぎ足でその部屋へと向かう。
尋常じゃない息子の態度に、流石に二人も不安を覚えたのか、彼の後を追うように部屋を後にした。
階段を上がり、真っ直ぐその部屋へと続く廊下を走り抜け、アルバートは扉に手を掛けた。
「シェリー?」
恐る恐るアルバートが声を掛けるも、何の応答も得られない。
普段の彼女の気性からして、誰であろうと勝手に部屋に入る事を嫌っていた。
掃除をしようとしたメイドをきつく叱責したのは記憶に新しい。
それでも、アルバートはゆっくりドアノブを押した。
何故なら、確かにこの部屋から魔力の残照を感じたから。
最初のコメントを投稿しよう!