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『もしもしゆつき』
「何?」
『大変なの。お父さんが倒れたの』
「え?」
『お父さんがゆつきには知らせるなって言ったから、秘密にしておこうと思ったんだけど、お父さんガンだってお医者様に言われて』
「ガン?」
『お父さんにはまだ言ってないんだけど、もうかなり進行していてそう長くは生きられないだろうって、お医者様が……』
「そ……」
『ゆつきすぐに帰って来てちょうだい』
「いや、いいよ。今仕事忙しいし」
『何言ってるのアナタは! お父さんが死んじゃうかもしれないっていうのに、仕事なんかどうでもいいでしょ』
「何言ってるのお母さん。いつだって仕事仕事で、家庭を顧みなかったのはお父さんでしょ。そのくせ家にいるときは、いつも怒ってばっかりで、何でそんな人の為にわざわざ帰らなきゃならないのよ。絶対に帰らないから!」
つい、思い切り怒鳴ってしまい。そのまま電話を切ってしまった。
「ゆつちゃん」
七美が心配そうに見つめている。
「七美」
「お父さんガンなの?」
「うん。今日倒れたみたい」
「そっか……帰らないの?」
「当たり前でしょ。ワタシがあの人のことが大嫌いなこと、七美知ってるでしょ!」
つい大きな声を出してしまった。
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