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翌日、七美に背中を押され、父の入院している病室を訪ねたワタシは、心の底から驚いた。
あの怖かった父の面影は微塵もなく、やせ細った姿だったからである。
「来てくれたのかゆつき、忙しいのにわざわざスマンな」
いつも横柄だった父の口から出た言葉に、ワタシは我が耳を疑った。
「ところでゆつき、オマエは今幸せか?」
「え、ええ、うん。毎日が充実していて、とても幸せよ」
いきなりそんなことを聞かれるなんて、予想もしていなかった。
「そうか、なら良かった」
父が優しく微笑む。
「充実もいいけど、早く孫の顔を見せてもらわないと」
母が余計な口出しをする。止せばいいのにその瞬間、ワタシのリミッターが外れてしまった。
「何言ってるのお母さん。悪いけどワタシは、男と結婚なんかしない。ワタシが愛してるのは、そこにいる七美だけだから」
カミングアウトなんかするつもりじゃなかったのに、つい言ってしまった。
「な、何をバカなことを言ってるの! じゃあ孫はどうするのよ!」
「知らないわよそんなこと!」
売り言葉に買い言葉、つい語気が荒くなる。
「止めなさい母さん!」
父が母を咎めた。
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