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「何よ!」
「まぁ、いいから落ち着きなさい」
「でも……」
「ゆつきはさっき、毎日が充実していて幸せだと言った。なら、いいじゃないか」
「何言ってるの? 良い訳ないでしょ」
「いいんだ。ワシの願いはゆつきの幸せ、ただそれだけだから……。確かナナミさんと言ったね」
「はい」
「ワシはもう長くない。ゆつきのことよろしくお願いします」
そう言って父が頭を下げたとき、ワタシの胸がズキンと痛んだ。ずっと前から父は、ワタシのことを想って、厳しく躾けてくれていただけなのではないのか?
「有り難うございます。必ず私がゆつちゃんを幸せにします。ただ、お父さんにも長生きしてもらわないと困ります」
「え?」
「私、ゆつちゃんの子供を産みたいんです。でも、女同士じゃ妊娠出来ないから、男性に精子をもらわなきゃならないんです。でも、どうせ産んで育てるなら、大好きなゆつちゃんと同じDNAの子が欲しい」
「ああ、そういうことか……。そういうことならワシも、孫を見るまでは長生きしたいな」
父はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
夜になって自宅に戻ったワタシに兄からの電話。ワシが死んで精子をやれなかった場合、オマエのを提供するようにと言われたらしく、兄はいつでも提供してくれると言ってくれた。
七美があんなことを考えていたなんて……。リビングのソファーでよだれを垂らして眠っている七美を、ワタシは微笑ましく見つめた。
愛してるよ。七美……。
了
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