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「残念。私もまだ子どもだから、大人の都合には逆らえないんだ」
本当に悲しそうにそう言って、香子姉はあたしの肩を抱いたまま反対の手でオレンジのお花をつまみ上げた。
「……それもニンジンだよね? 」
「そうだよ。ニンジンのシロップ煮。
ケーキが食べれたらこれも……って思ったんだけどな」
母子家庭で忙しいおばさんに代わって小さい頃から料理をしてきた香子姉は、とても器用に包丁を扱う。
このニンジンの飾り切りもプロ顔負けだと思う。
だけどあたしは見つけてしまった。
左手の人差し指に血の滲む絆創膏を。
いつもあたしを守ってくれた香子姉の手。
いじめっこを殴ってくれたのも、
泣き虫だったあたしの涙を拭ってくれたのも、
全部、全部この手だった。
その手で最後はあたしのニンジン嫌いを直そうとしてくれたんだね。
そう思ったら、堪らない気持ちになって香子姉に抱きついていた。
オレンジの花をくわえていた唇に自分のそれを重ねる。
「ばっ……! みゆ……!」
不意討ちを食らった香子姉の口からあたしの口の中へ転がり込んだオレンジの花。
あたしはそのまま香子姉の首もとに顔を埋めて、甘い花を噛み締めた。
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