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僕はマーブルというビルの清掃をしているが、本当は派遣社員で担当がそこだけ。
だから時々、抜けた人のピンチヒッターで違う所に派遣されることもある。
そこここで仕事のルールが違うから、担当外に回されるのは憂鬱だった。
「じゃ、弟橘くん、よろしくね」
「はぁ」
この日僕が任されたのは改築された建設会社のビルで、夕方からの仕事だった。
首を捻る。
事務員さんの話では、この日社屋の改築披露がされるそうで、来客者がたくさん来るそうだ。
通常だったらお披露目会が終わった後に清掃に入るんじゃないの?
「確かにそうなんだけど、来客者が汚したトイレのリアルタイム清掃とかね?」
「ゲロですか」
「ゲロだね」
「吐瀉物ですか」
「お上品に言うとそうね」
何でもそこの会社は年に何度か社内で飲み会を開くことがあったらしく、夜から清掃に入っても間に合わなかったことが何度もあったそうで。
清掃委託されていた僕の会社は先手を打って、今回の運びになったらしい。
「時給の割り増ししとくから、ほら頑張って」
「はぁ……」
返事と溜息が混じったものを口から吐き出し、僕は会社からの電話を切った。
ゲロの始末も嫌だが、他所の清掃も面倒で嫌だった。
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