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 地下鉄に乗って、指定されたビルの裏口から入る。  正面にはもう高級車が続々と乗り入れていて、駐車場案内の同僚はてんてこ舞いしている。  裏口の警備室にある名簿に名前を書き、案内されるまま進むと、見知った顔があり安心した。  彼はもう五十を越えていて、僕のお父さんよりも年上だけど僕と同じ時給で働いている。  名前は越野さんと言って気弱そうな風体の、よくテレビで必ずイケていないおじさんの役をしている俳優さんに似ている。  性格は明るくて、新人だった僕の師匠になってくれた人だった。 「越野さん!」 「おぉ秋良君じゃないか。君も臨時?」 「今朝連絡が入って」 「俺もだよ~。適度に頑張ろうな~」  越野さんはそういうと僕に紺色のつなぎを手渡した。    つなぎに着替えた僕は、腰にガチ袋をぶら下げる。  袋の中には清掃の七つ道具が入っていて、僕の私物だ。 「ちょっと一回りしてきます」  越野さんはロッカールームの椅子に腰かけ、うとうとしていた。  きっと夜勤明けで仕事をして、寝ていたところを叩き起こされたんだろうな。  僕はそっとドアを閉め、改築され良い匂いのするビルの階段を上った。
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