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バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ。
大粒の雨は、止むことなく地面にたたきつける。薄暗い透明なビーズが降り注いでいるかのように、質感を伴った音でアスファルトを打つ。濃灰色に覆われた空のもと、薄暗さに包まれた下界には人っ子一人、猫の子一匹いやしない。
生き物の気配が消え失せたその町で、ただ一人、電柱の上に腰掛ける少女がいた。白い長髪、簡素な白いワンピース。まだ小学生くらいだろう。裸足の足を投げ出して、少女は楽しげに足を揺らす。耳を澄ませてみれば、打ち付ける雨の音に混じって鼻歌が聞こえてきただろう。
少女の髪は雨に濡れてぺたりと顔や衣服にまとわりつき、ワンピースも同様に少女の小さな肢体にはりついている。これだけの雨に濡れて、半袖でありながらも寒がる様子一つ見せず、少女は口の端をつりあげてにんまりと笑った。
すっと、右腕をあげて前方の空を指す。少女の指の先、濃灰色の空が二秒ほど真っ白になった。間髪いれず轟き渡る雷の雄叫び。
「あ、はっ」
少女の口から乾いた声が漏れる。だらりと腕を下ろし、彼女はひくりと腹を震わせた。
「あは、はははっ、あははははははっ、あははははははははは!」
雷鳴にかき消され、雨音に吸収され、少女の声は、どこにも届かない。
たった一人で笑い続ける少女の赤い瞳は終始、灰の空へと向けられたままだった。
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