刀の想い

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 その日は雨が降っていた。  台風が近づいていて、不用意に外へ出るのは危険だと判断し、義英と母親は最低限の備えをして家の中に籠っていた。  小さな鉢植えの花は部屋の中に運び、プランターは玄関口に避難。作業道具は全て倉庫に押し込み、後は父親が無事帰ってくるのを待つだけだ。  義英は自室で小さな花に水をやっていた。  最近萎れてきてしまって、ネットで調べるとかなり水が必要な植物らしく、たっぷりの水を単体でやることにしたのだ。  そんな義英の背後には、件の刀が転がっていた。  しかし、今は殺気がしない。  むしろ、何かに見守られているような、安心感があった。  することがなくなり、床に布団を敷いて倒れ込む。  刀はすぐ目の前に転がっている。  義英が目を閉じた途端に、身を切り裂くほどの殺気が飛んできた。  驚き目を開くが、そこに刀はない。  飛び起きて部屋中を見るが、刀はどこにもなく、義英は首を傾げた。  襖を開けて押入れを覗くが、やはり刀はない。  部屋の外に行ってしまったのかと思い、恐いながらも廊下に繋がる襖を開けにかかる。  しかし、なぜか襖は開かない。  布団が食われているのかと布団を見るが、先ほど敷いたのだ。襖からは離れている。  おかしいと感じた時には、時すでに遅し。義英は突然現れた刀に押し倒されていた。  尻もちをつき、腰を床に打ち付け、義英は腹に乗った刀よりも襖を見ていた。事を理解して、徐々に肩を震わせ、顔を青くする。  襖中に、赤い手形があった。  赤いものは、どう見ても血。それも、いましがた流れ出たかのように澄んだ赤色だった。  義英はそこで、やっと刀を見る。腹の上で鈍く光っていて、そこは真っ赤な血で濡れていた。  しかし、おかしなことに刀は腹を触っているのに、血は服に付着しても切れることがなかった。
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