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恐る恐る刃先を指につけ、少しの力を入れたが、指が切れることはない。
錆びついているし、手入れが行き届いていないため、刃が丸くなり鋭くないのが原因である。
血塗れなことが、理解できなかった。これは返り血ではないのだと、義英はすぐには気づけずにいた。
昔聞いた小さな話。男は刀を持ちながら、人を斬ることを嫌ったという。
観賞用なのかなんなのか、男は手入れを欠かさずいつも飾っていたという。
しかし、男が亡くなり、その息子は刀を押入れの奥に隠した。いつしか刀の存在は忘れられ、火事で家が燃えた際に消えてしまったという。
消えた? 本当に消えた?
姿を隠しただけではなく?
醜い姿を人に見せることを嫌がった刀が、隠れていたのではないのか。
義英は暫くの間放心し、我に返って襖を見た時には手形は消えていた。
刀の赤は取れなくて、服も真っ赤なまま、夢や幻ではないと物語っていた。
もう、殺気はない。安心感がまた義英に広がる。
起き上がり刀を手にすると、刀から液体が滴った。
赤いが、ただの血ではない。
血の混じった涙だった。
義英は慌てて自らの服の上に刀を置く。
部屋を汚されては母親に叱られてしまうからだ。
刀は泣き続けた。
外の雨に負けない程。
不思議なことに、義英の服は赤く染みていかない。本当に涙のようだった。
刀には守る者があった。
己を大切にしてくれた持ち主に似た魂を持つ者だ。
危険な霊が襲いに来れば返り討ちにしていた。
しかし、刃先は鈍り切れない。いつもやられるのは己自身。
身代わりになっていたのだ。
自らの血を浴び、また錆びて、どんどん切れが悪くなるのを感じていた。
それでも、守るべき者は守り抜こうとしていた。
義英が生まれ、刀はまた守る者を見つけた。
またあの魂がやってきた。そう刀は喜んでいた。
だが、義英は刀を見た。稀にでる神眼をもって生まれたのだ。
刀に宿った守り神を、神眼を通して見ていたのだ。
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