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『恐がらせるつもりではなかった……』
刀はいつも、哀しかった。
義英の背後に立つ悪霊に威嚇するたび、彼は脅える。
花に憑いた悪霊を追い払うたび、義英は哀しい顔をする。
そして到頭、義英は刀を触ってしまった。
血濡れた刀に触れてしまった。
刀はそこに在るのだと、気づかれてしまったのだ。
また、恐い思いをさせてしまった。
刀の懺悔など気づかずに、義英は刀を握ったままパソコンを開く。
“錆びた包丁はどうすれば復活する?”
湿らせた布で拭くように書かれていて、義英は急いで洗面所へ行き雑巾を濡らした。
母親は夕食の準備をしていて気づかない。
部屋に戻って刀を拭うと、少しだけ錆びが取れてきた。錆びは、一日やそこらでは完全に取れるものではないらしいので、表面的に綺麗になったところで義英は手を止める。
机の上にある砥石を手に取り刃にあてた。普段は、剪定用の鋏などを研ぐために使っているものだ。
テレビで見た包丁職人や、時代劇などで見る刀職人の見よう見まねで研いでみる。
三十分経過したころ。
そろそろかと砥石から刃を離し、光に当ててみる。錆びはあるが、綺麗だ。
指を這わせると、指の腹から赤い雫ができ流れる。
義英は刀を机に置いた。
「ありがとう」の気持ちを込めて、丁寧に研いだ。
その気持ちは刀に伝わっていた。
どこから出てきているのか、ずっと刀からは涙が出てくる。それに色はない。
けれど机にはなにも垂れない。
「お前、九十九神っていうのか?」
パソコンで調べものをしていた義英は、手を止めて机の上の刀へ問いかける。
画面の中には、『霊のついた刀の正体は付喪神!?』という記事が出ていた。
義英は、九十九神のことはある程度は知っていた。祖母がよく、大きな木の赤い実を摘むときに言っていたのだ。「この木には九十九の神様が住んでいるんだよ」と。
古い物は神が宿りやすいという。刀も、長い年月をかけて神が宿ったのだろう。
「助けてくれて、ありがとう」
義英が刀を撫でると、刀から黒いモヤのようなものが飛び出した。
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