刀の想い

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 ボヤケて見えにくいが、机の脇に一人の子が立っている。  別段驚くこともなく義英は少年か少女か判断しかねる子を撫でる。  輪郭ははっきりせずとも、触れることはできた。  子は静かに泣いていた。 「ごめんなさい」  声は裏返っているが、それは少年のようだった。 「恐がらせる、つもりじゃっ」  しゃくり上げながら頭を下げてくる少年を義英はなおも撫でる。  髪がボサボサになっても撫でつづけた。  今までも守ってもらっていたのだろう。殺気を感じるたび、自分は救われていたのだろう。 「実体化するということは、かなり上級の神だな?」  問いかけたところで少年は応えないけれど、義英は頭を撫でながら言う。  「放っておいて、ごめんなさい」と。  義英は、それから時間があると手入れをするようになった。  野菜を、花を、土を、木を、そして刀を。  神が実体を現したのは初めの一度だけであるけれど、それでも手入れをするたびに感じる。  手元で、彼は笑っているのだと。「くすぐったい」と笑っているのだ。  布で拭けば気持ちよさそうに眠りにつく。  きっと、植物も同じなのだろう、と義英は微笑む。  あの日の翌日、想い余って、義英は農業に飛び込むことにした。  生前祖父の友人だった人が、手伝いに来いと誘ってくれたのだ。  刀の事も、畑の事も、今までとは違った生活だけれど、きっと前よりも生きがいを感じている。  義英は刀を押入れにしまい、布団に飛び込んだ。  殺気を感じても、恐怖は感じなくなった。  ほら、今も刀は戦っている。  ー終ー
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