夏桃の氷菓

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「なぁんだ。もう、なぁーんだ!」  あーあ、と千代は自分の勘違いにほっとしたのか、大きなため息をついたのだった。  それからしばらく私達は沈黙してしまって、私は溶けた白桃色のアイスクリームを食べて、千代は生クリームたっぷりのパンケーキを食べていた。 かちゃ、かちゃ、と私達の間で音が鳴る。 「……もう一回言ってよ」 「え?」 「あんたからあんまり聞いた事なかったと思うし。好きって」  言った事はなかった。 だって私の好きは、千代と違う好きだったから。 「……好き」 「うん」 「千代の事、好き」 「あたしもあんたの事、好きだよ。あーもう、泣かないでよー」  ああ、もう、涙腺崩壊しちゃった。 嬉しくて、もう我慢できなくて。 聞き間違いでもなくて。 「ほら、目ぇ拭いてあげるから。あーあー、もー」  と、千代は腰を上げて指で涙を拭ってくれる。 優しくて、気持ちいい。 そう思っていたら、いつの間にか近くで目が合って。 「あー……その、したいんだけど」  千代は目を泳がせて口を尖らせていて。 「何を? あ、ハグ?」  むかついていたし、と私は言ってみたのだけれど。
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