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あぁ、大丈夫だ。この気配は、俺がよく知っているアイツの気配だ。
「おい、俺は起きているぞ。入るならさっさと入ってこい、キツネ」
小娘が拾おうとしていた破片を1つ戸口に投げつけると寸の間を置いて戸口がわずかに開き、そしてすぐに閉まった。その時間、わずか1秒未満。
わずかな隙間で入ってきた瞬間に俺の隣にチョコンと腰を下ろしたのは、首に緑色のバンダナを巻きつけた真っ白い狐。
「わぁっ、真っ白い狐なんて珍しい!しかも超可愛いっ!」
ついさっきまで衰弱して倒れていたとは思えない彼女は、かじっていた干し肉をポーンと放り投げて白い狐を抱き上げた。
目にも留まらぬ速さだ。これなら、もう肩の支えはいらないか?いらないな。
白い狐は逃げる間もなく彼女の腕の中に収まると、カチンコチンに硬直して全く動かなくなった。あぁ、かわいそうに。
「いやー!毛がツルツルのモフモフで温かーい、可愛いーっ!」
「離してやれ。キツネは人間の女が世界で1番苦手なんだ」
「えぇー?全然そんな風には見えないけど、もしかしてアンタのペット?」
「キツネがペットなんて勘弁してくれ。キツネ、お前もそろそろヒトガタになれ。この小娘は俺の正体を知っていて頼ってきた、変人だ」
物足りなさそうな小娘が渋々白い狐を解放してやると、硬直から回復した白い狐はピューッと一瞬で俺の背後に逃げ隠れた。
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