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――その、約1時間後。
「はぁぁぁぁ……癒されたわぁ……」
「俺は耳がちぎれ飛ぶかと思ったぞ。あぁ、ちゃんとくっついているな」
耳を押さえる俺の隣で、神那はホワンと幸せそうに和んでいる。とても、約1時間前の神那と同一人物とは思えないくらいの変わり様だ。
あれはまるで般若。うっすら殺意さえ身にまとった、怒りの化身。何も言わない、静かな怒りほど怖いものはないな。
そしてそんな彼女の腕の中では、キツネがショックで小刻みに痙攣している。目は開いているがぬいぐるみの、ビー玉の目ように何も映ってないみたいだな。
それもそうだろう。俺に首を掴まれているキツネに飛びかかった神那は、仕置きと己の欲求を混合させてキツネをギュッと腕に抱いた。
それでそのまま目にも留まらぬ早さでワシャワシャとキツネを撫でまわし続けたんだ。怒りと欲望、爆発。
おかげでキツネは完全に失神。温かいぬいぐるみと化している。む、口の端から泡が出ているな。汚い……
「キツネ君、本当に女性がダメなのね」
「こいつは昔、10年近く育てられた若い女に殺されかけたんだ。白い狐は珍しい。その女、元々毛皮が目当てで親身になって世話をしていたらしい。逃げたキツネが転がり込んできたのがこの家で、偶然起きていた俺が面倒臭いながらも女を追い払ってやったんだ」
「キツネ君にとってあんたは命の恩人ってわけね」
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