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彼女は俺の両耳を引きちぎりかけた手をパッと離すと、ハッと背後の戸口を振り返った。酷く焦ったような、怯えた表情。どうした?
そこには何もなかったが、彼女は何かに怯えるように再び耳をさすっている俺の方に向き直った。
「おい小娘。小娘の目には、この俺の姿が鬼なんかに見えるのか?俺には、小娘の方がよっぽど鬼らしく見えるが」
「全然。ただの怠惰な若い男にしか見えないわ」
「ならば来た道を辿って早く帰れ。ここは小娘が1人で来るような場所ではない。というより堂々とした不法侵入だぞ」
「嫌よ」
「聞き分けが悪いな。今すぐ帰らなければ、日が落ちて帰れなくなる。家の者に心配をかけてやるなと言ってやっているのに」
「あたしの家族は皆天国にいるわ。それに、もう鬼のアンタに頼むしかないの。警察や自衛官、どんなに強い人間でもダメ。圧倒的に頑丈で強い、鬼のアンタじゃなきゃ…………覚悟は、できているの」
「…………」
孤児か。まぁ、妖達が姿を消して数百年が過ぎ去ってしまった今、本物の鬼がいるという噂を信じてここまで来たんだ。何か、深刻な事情があるんだろうな。
きっと、その強い信念でこのボロ家を見つけられたんだな。運が悪い、俺。
あぁ、久方ぶりの人間だ。面倒臭いが、暇潰しに少し話を聞いてやるか。こいつのこの強気な茶色の目は嫌いじゃない。
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