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俺は彼女の手から肉を取り上げると、壁にしがみつかさせてさっきの戸棚から別の笹の葉の包みを取り出す。戻って、彼女に差し出した。
包みの中には、茶色い干し肉の塊。よく見ると、少しだけ色が淡い。見るだけで違いが分かるか?
「干した鹿肉だ。ただし、さっきよりも干していた時間が浅いからそんなに固くはないはずだ」
俺が軽く手で肉を割いて見せてやると、彼女は納得したようですぐにかじりついた。食欲旺盛か、当たり前か。心なしか、目がギラついているようにも見える。
「あ、ちょうどいい柔らかさ。ソフトジャーキーみたいだし、これなら食べられるわ」
そう言うと食欲全開で、両手に肉を持ち何度も食らいつく彼女の姿は、まさに野獣。若い女とは思えない暴力を振るうのも納得の、野獣。
俺はそんな野獣の背中を支えながら、さっき彼女が放棄した硬い肉を食う。俺にはこれくらいの硬さがちょうどいい。
噛み続けていると旨味が口の中に広がって美味いのにな。この良さがわからぬとは、残念だ。またあいつに、鹿を狩ってくるように言っておかなければ。
鹿を仕留めるのは俺の下僕が。捌いて、干し肉に加工するのは俺がやっている。俺も鹿なら狩れるが、面倒くさい。家から出たくない。
……そういえば、今はいつなんだろうか?
確か平成という時代になったんだよな。それからは、山を下りてないしわからないな。最後に眠ってからそんなに経ってないはずだが。
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