片道切符。

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『将来の夢は大好きな男の子とハネムーンに行くことです』と部屋の整理をしていたら、小学生の頃、書いた作文が出てきました。ちょっと懐かしい気持ちになりながらも子供の頃、何も知らない無知さにとても恥ずかしい気持ちになります。ハネムーンって、それは新婚旅行で、初夜ってことになるわけで小学生の頃の私は何も恥ずかしがることなく生徒の前で発表したと思うと、幼さの苦笑いと羞恥で身悶えしてしまいます。 「でも、これで最後なんですよね」 と部屋の整理をしながら私は作文をそっと胸に押し当てる、この町に生まれて、育って高校卒業する前に私は転校することが決まっています。理由はありがちな理由で、父親の仕事の都合でした。私だけここに残ることもありえたんですけれど、やっぱり女の子の一人暮らしは何かと問題があるらしく一緒についていくことになりました。 寂しくはないとは言い切れません、生まれ故郷ですから思い出だってたくさん、残っています。私は人付き合いが苦手でしたけれど、友達が居ないわけじゃありませんから。どう切り出すべきなのか迷いながら私はあと何度か着るかわからない制服を着て学校に通います。 制服が可愛いからという理由で第一志望にした高校は私の成績ではとうてい合格する見込みのない高校でしたけれど、制服が可愛いからなんて先生や親に言えるわけもなくてただ通いたいからという理由で必死に勉強して合格しました。そしてこの結果です。親に恨み言や愚痴を言うつもりはありませんがやっぱり心残りがあります。そのためか最近は朝早くに高校に来て、誰も居ない校舎を一人で歩きます。可愛い制服を少しでも着ていたいという気持ちと、見れなくなるこの校舎から見る町の雰囲気を少しでも目に焼き付けていたいのかもしれません。センチメンタルです。 「おはよう、井原」 と廊下を歩いていると、私の名前を呼ばれました。井原涼子(イハラ、リョウコ)それが私の名前です。 「おはようございます。篠田先生」 振り返りながらぺこりと頭を下げます。篠田先生は私の担任教師で転校の事も知っています。 「相変わらず礼儀正しいなぁ。井原は、もっと馴れ馴れしくしてもいいんだぞ」 彼はなんというか、ノリが軽い先生で生徒にも人気のある先生です。生徒相手にも変に壁を作らない人です。 「目上の人に礼儀を忘れるわけにはいきませんし、私は、サイボーグと呼ばれていますから」
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