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「あのなぁ、井原、それ嫌みなあだ名なんだからわざわざ自分で言うことないだろ。つーか、女の子がサイボーグって」
「いえ、気に入っています。私、サイボーグ好きなんです。知ってますか、サイボーグ009、名作ですよね」
サイボーグというのは私のあだ名だ。しゃべり方や行動がロボットみたいだと言われいつのまにか定着してしまったあだ名です。
「いや、知ってるけれど、なんでお前が旧作のアニメを知ってるのか先生、驚きだよ」
「好きなんです」
そのほかにもシャーマンキングや地獄先生ぬーべーも好きです。ああいう人外や妖怪が登場する物語が好きなんです。
「そっか、先生も漫画とか読むんだけれどな。ギャグ漫画とか好きか? ジャングルはいつでも晴れのちグゥって知ってる?」
「知りません」
「さっぱりしてるなぁ」
「先生がおすすめだと言うなら読みますよ」
「いや、もう絶版になってるだろうし、生徒と教師じゃ貸し借りもできないしな」
「そこはしっかりしてないと困ります」
「しっかり者の井原に言われるとなんだか、しっかりしなくちゃなぁと思えてくるから不思議だよ」
「そこは先生なんですから」
「先生なんだよなぁ」
と篠田先生は壁に背をあずけながらふぅとため息をつきます。その横顔を見ながら私もぼんやりと天井を眺めます。
「なんだかなぁー俺ってなんで先生になったんだろって思うことがあるんだよなぁ」
「先生になりたくなかったんですか?」
「いや、なりたかったよ。高校生の時に憧れの先生が居てさ、その人みたいになりたいからって理由で教師を目指して、教師になれた時には、その人は結婚してましたーってオチ」
「ドラマでありがちな展開ですね。恋愛小説とか」
けれど、そういった憧れはきっと叶わないことが多い。 夢は夢のままで終わってしまうものです。
「高校生はいいよなぁ、そうやって何でも恋愛で絡められてさ」
「違うんですか?」
「違うよ。憧れであって、恋じゃないんだよ。年も離れてたし最初から実現は不可能だったんだ」
憧れ、恋ではなくて、憧れと言える彼は大人なんだなと思います。子供の頃、意味もわからずに作文にハネムーンだと書いたり、制服が可愛いからという理由だけで高校を選んだ私は子供なのでしょう。
「井原? どしうした、黙り込んで」
「いえ、なんでもないです」
私の顔を覗き込んできた篠田先生から視線をそらします。
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