片道切符。

4/7
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
私のなかなか感情を表に出にくいのが幸いしました。こうして男の人と話すのは目を合わせるのは苦手です。心臓がバクバクとうるさいです。キュッと胸のあたりで手を組んで小さく息を吸って整えます。スーハースーハー。 「篠田先生」 「ん?」 「憧れは、やっぱり恋にはならないんでしょうか」 例えば近所に住んでいるお兄さんのことを好きになるような、小学生の頃、好きだったお兄さんとハネムーンに行きたいと作文に書いてしまったこともやっぱり憧れでしかないのでしょうか。 「さぁ、俺は憧れで終わったけれど、それが恋になることもあるんじゃないのか。諦めて終わりにするか、それとも諦めないで想い続けてれば恋は……」 そう言い篠田先生はちょっとだけ言いよどみながら、 「恋はなるんだよ」 私の頭にポンッと手を置いてくしゃくしゃと撫でてくれます。私はちょっとだけ驚いてしまいましたけれど、なんとなく振り払うことができず私はほんの少しだけ口元をゆるめました。 大きな手の感触がとても心地よいもので、フワフワとした気持ちになりました。 転校までの日時はまだ、はっきりとはしていません。篠田先生にもそのことを伝えてありますが、早くても夏休み前には、つまり一学期の終わりにはこの町を去ることになるのでしょう。夏の到来と共に私は居なくなります。篠田先生にとっては生徒の一人が居なくなるだけだとわかっていてももやもやとした気持ちが消えません。 あの日、篠田先生に頭を撫でられてからそういった気持ちが大きくなっていきました。篠田先生とは二人っきりで話すことは初めてではありません。教室でも一人っきりでいることが多い私を気にかけてくれましたし、あだ名がサイボーグだと呼ばれていることもいじめではないかと心配してくれました。 いじめでもなんでもありません。私は一人で居ることが好きなんですと答えた時の篠田先生の安心した顔は今も覚えています。あの表情は本当に心配してくれていたのでしょう。 サイボーグのような私、心も身体も鋼鉄のように冷え切っている私なんて気にかけてくれなていいのになんて思っていたのにいつのまにか、心の中に灯っていた炎が私の身体を焦がします。熱くて痛いです。焼けて焦がれします。 憧れは憧れでしかないのです。たぶん、私の篠田先生に対して抱いた気持ちも大人の男性に対する理想でしかないんです。大人の男性に胸の奥底がキュッとします。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!