片道切符。

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責めるような口調ですけれど、いたわるように感じてしまいます。そんなふうに感じてしまうのはどういうことなんでしょうか。篠田先生の車の助手席に座り、タオルで頭を拭う。シートを濡らしてしまうのから少し居心地が悪いですが、篠田先生はそんなことはちっとも気にしてないようです。 「なんだかドラマみたいです」 「ん? ドラマ?」 「ありそうじゃないですか、生徒のために奔走する教師って」 「かもな、そう言うならお前はもう少しで転校してしまうってのもありがちかもな」 私から振ってしまった話題でしたけれど、一気に気まずくなってしまいました。膝の上で両手を握りしめて俯くしかありません。 「転校するの嫌なのか?」 「…………」 答えられません。答えたくありません。口を開いたら泣いてしまいそうです。 「まぁ、今更、転校を取り消しなんてできないし、俺にもそんな権限はないから偉そうな口は言えないけどな、井原はもっと我が儘を言っていいと思うぞ」 「我が儘、ですか?」 「ああ、井原はさ、いつも自分を押し殺して、他人の意見を優先させるよな、他人任せっつーか。尊重してるみたいな。自分さえ損をすればそれでいいと思ってるだろ。そういったことが大人の対応だと思ってる」 違うか? と篠田先生は言いますが、私はうまく答えられません。確かに私は感情を表すことが下手ですけれど、いつのまにかそう思ってたのかもしれません。 「我が儘だって言っていいんだよ。お前はまだ、子供なんだから、そうやって大人ぶって一人で背負い込まなくてもぶちまけていいんだって」 我が儘を言っていい。なら、それなら、 「先生と一緒に居たいと思う私はおかしいですか?」 「…………」 「先生のことを憧れて、恋をしている私は変ですか? 好きだと言ったら受け入れてくれますか?」 私はまだ、子供だからと受け流されるだろうか、初恋は決して叶わないというけれどやっぱり叶わないのだろうか。篠田先生が憧れた人のように、私もいつか置いて行かれてしまうのでしょうか。詰め込んだ気持ちは止まるところを知らず、やっぱり私は先生のことが好きなのです。 「やっぱり井原は子供だよ」 「…………!!」 「男にちょっと優しくされたからって簡単に好きになってるのようじゃガキだ。恋とか愛とかもっと大人になってからにしろよ。高校生」 大人になってから、その言葉が重くのしかかってきました。
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