逃【そとのせかい】

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「さて、と……。お散歩ついでに、あなたとゲームでもしようかしら」 「……ゲーム?」 警戒している彼に気付いていないのか、それともわざとか。 女性はマイペースにそう提案した。 正直、彼はこの場から逃げ出したかった。 万が一女性が、幽霊か、または得体のしれない何かだったら対処する術がないからだ。 確かに特殊な膜を張れるが、それが有効か分からない。 とりあえず、彼はそのゲームとやらに乗ってみようと思い、尋ねた。 「……で、内容はなんだ」 「ふふ。単純で分かりやすいわよ。私と追いかけっこするの」 「……追いかけっこ?」 「ええそうよ。私から30秒逃げ切れたらあなたの勝ち」 「……捕まったら、俺の負けということか」 「ふふ。もちろん、負けた方には罰ゲームがあるわ。敗者は勝者の言うことに一回だけ無条件で従うことよ」 「……やらないといったら?」 「あら。あなたには拒否権は無いわよ?」 「……なぜだ?」 「だって」 もう始まっていますもの。 女性が嫌な微笑みを浮かべたその瞬間。 彼は目の前で起こったことに唖然とした。 女性の背後から……突然、切れ目が開いたのだ。 切れ目の向こう側は沢山の目があり、どれも彼を見ている錯覚がする。 「……ば……!」 化け物……! 彼は一瞬停止した思考をその一言で呼び戻し、瞬時に膜を張った。 そして、猛スピードで上へと逃げる。 さっき見たあれは何なのか彼には理解できなかったが、女性がそれを出現させたことは分かった。 あれから感じた得体の無い気味悪さと、女性の雰囲気。 それを総合して考えた結果、女性は化け物だという結論に至り、この場から速く離れようとする。 それはあながち間違っていないかもしれない。 なぜなら、女性は人間の姿をしているが人ではない別の種族なのだから。 ……そして、彼は一つ失念していた。 あまりのことに冷静さを失っていたから気付けなかったのだろう。 切れ目は突然開いた。 つまり、どこでも開けられるという考えができる。 なので、猛スピードで上がるなどしたら……。 「……!!」 突然開いた切れ目を避けきれないのだ。 彼は必死に止まろうとしたが、勢いがつきすぎて止まらない。 そして。 「ふふ。私の勝ちね」 彼を入れた切れ目は閉じた。
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