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わたしは大きく頷いて胸をこすりあわせる。腰まで勝手に動いちゃって我慢できない。
「うんそう! 見てたでしょ? ねえわたし、幾らだって取って代われるわ! やっぱり汚い連中なんてこの世にはいらなかったのよ。だからね、今日からはわたしとしよう?」
「はあ……、本当に一体どこで育て方間違えたのかしら? 瑠璃はお兄ちゃんよりはまともだと思っていたのに……」
苦笑いしながら頭を抱えるあなた。わたしはたちまちぶすくれて、もっともちょっと自分の愛がおかしいのはわかっているつもり。でも教科書に乗らないからと言って歪みだとするのはそれこそ“連中”の都合だわ。わたしの愛は綿菓子のように脆いの。だから甘くとろけるの。それがお固い連中とではどうしても上手くとけあえなかった、たったひとつの理由なのよ。
こうしてしゅんとしてしまうわたしの頬にキスをする、そんなあなたはやっぱり稀代の女優ね。
「これでいいのね?」
わたしは頷いてあなたにしっかりと抱きつき、そう、あなたの優しさは無限だわ。あやしてほしいわ。抱いてほしいわ。いつまでもいつまでも、わたし、こうして愛してほしかったの。
「ねえねえ、わたしのこと好き? 愛してる?」
「……もちろん好きよ? 愛してるわ」
わたしは押し倒されながら尚も続きを目で催促。気づいたようにあなたが訊いた。
「瑠璃は、どう?」
うふふと笑い、ところで後ろでもぞもぞと起き出し・ウィンクしながら平然と・親指を突き立てるお兄ちゃんまさかの再演。全くもう、わたしの非力が幸いしたようねお兄ちゃん。もっとも役どころは返さないしあなたにもまだ黙っておくわ。それとこれとは話が別よ! 大体少しばかりパパに似てるからっていい気にならないで! だってわたしはあなたに似てる。これ、最強のアドバンテージでしょ?
だから早くこっちを向いて。わたしは頬を熱くしながら告白する。
「愛してるわ、ママ……!」
漂った鉄の香りが包み込む。まるで繭のようね。わたしは鋭くキスをして、たちまち膜を――破って生まれる最狂“ランソウ”オイディプス。
〈了〉
(平成二十六年九月三日)
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