乱槍オイディプス

6/6
前へ
/6ページ
次へ
 わたしは大きく頷いて胸をこすりあわせる。腰まで勝手に動いちゃって我慢できない。 「うんそう! 見てたでしょ? ねえわたし、幾らだって取って代われるわ! やっぱり汚い連中なんてこの世にはいらなかったのよ。だからね、今日からはわたしとしよう?」 「はあ……、本当に一体どこで育て方間違えたのかしら? 瑠璃はお兄ちゃんよりはまともだと思っていたのに……」  苦笑いしながら頭を抱えるあなた。わたしはたちまちぶすくれて、もっともちょっと自分の愛がおかしいのはわかっているつもり。でも教科書に乗らないからと言って歪みだとするのはそれこそ“連中”の都合だわ。わたしの愛は綿菓子のように脆いの。だから甘くとろけるの。それがお固い連中とではどうしても上手くとけあえなかった、たったひとつの理由なのよ。  こうしてしゅんとしてしまうわたしの頬にキスをする、そんなあなたはやっぱり稀代の女優ね。 「これでいいのね?」  わたしは頷いてあなたにしっかりと抱きつき、そう、あなたの優しさは無限だわ。あやしてほしいわ。抱いてほしいわ。いつまでもいつまでも、わたし、こうして愛してほしかったの。 「ねえねえ、わたしのこと好き? 愛してる?」 「……もちろん好きよ? 愛してるわ」  わたしは押し倒されながら尚も続きを目で催促。気づいたようにあなたが訊いた。 「瑠璃は、どう?」  うふふと笑い、ところで後ろでもぞもぞと起き出し・ウィンクしながら平然と・親指を突き立てるお兄ちゃんまさかの再演。全くもう、わたしの非力が幸いしたようねお兄ちゃん。もっとも役どころは返さないしあなたにもまだ黙っておくわ。それとこれとは話が別よ! 大体少しばかりパパに似てるからっていい気にならないで! だってわたしはあなたに似てる。これ、最強のアドバンテージでしょ?   だから早くこっちを向いて。わたしは頬を熱くしながら告白する。 「愛してるわ、ママ……!」  漂った鉄の香りが包み込む。まるで繭のようね。わたしは鋭くキスをして、たちまち膜を――破って生まれる最狂“ランソウ”オイディプス。 〈了〉 (平成二十六年九月三日)
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加