乱槍オイディプス

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 いつまでも美しく。凛々しいそんな、あなたの職業は舞台女優。  でも最近は、若い男に夢中のよう。  あれだけわたしのことを愛してるって言ったのに。  何度もわたしのことを抱いてくれたのに――  溜め息吐息、憂鬱。高層マンションの最上階。3LDKの広大な間取りは、今は亡きパパからの餞。わたしの室内はいつもキラキラ。張り巡らせた無数の鏡のお陰。どこからでも見えるお気に入りの艶髪が腰まで伸びて、衣服をも兼任。この身体を覗き込むだけで、あなたとの残存記憶が溢れ出す。 『愛してるわ』 「ほんと?」 『瑠璃(るり)はどう?』 「愛してるわ……!」  ぼふんとベッドに舞い落ちて、天蓋に頷く。自信回復。それがわたしのお姫様たる証明。今頃あなたの舞台ではオイディプス躍動。気付いたら真夜中。わたしの眠るのはいつも明日。大人になんてなりたくない。なりたくない為のあがきに似たもの。  あなたがこの一室に訪れる時、傍らには必ずオイディプスがいる。ああ、なんて忌々しいオイディプス。わたしはたちまちお布団を胸まで上げて、掴む手には確かな苛立ち。それに寄り添う甘いマスクに優しい声。常に演技の香りが漂うの。 「瑠璃、きちんと食事取ってるの? あーあー、お菓子ばかり食べていちゃダメだろ?」  わたしのお菓子を取り上げながらパパみたいなこと言わないで。あなたがオイディプスの顔を覗き、その頬はうっすらと染まっている――なんて茶番! カッカッするわたし、ヒステリー発症。 「出てって! わたし、呼んでない!」  すると頬を掻いて軽やかにオイディプス退場。でもその後ろをついて行く、あなたは極度の淫乱。嘘。やっぱりあなたは悪くない。あなたはただ美しすぎるだけ。憎むべきはオイディプス・天性の魔装。  わたしは気配が消えたのを確認してベッドから下り、窓の側のパソコンを付ける。椅子へ座りながらイヤホンを耳に掛け、真っ黒の画面を覗いて数十分後、パッと画面が明るくなる。
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