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キッチンを覗く泥棒は、パチパチと明滅する。すぐに見つかるキラキラとした光。弾けるようなキス。くるくると舞いながらリビングへ向かい、大声で叫んだ。
「お兄ちゃん、どこー!」
すると早速奥の寝室から物音がした。まるでも何もなくドタバタな喜劇。舞台への扉を開くオイディプス。し忘れたメイク。オスの香りをプンプンさせながら、わたしの香りを感じ取ってにやけた。
「ど、どうしたんだよ瑠璃。びっくりするじゃないか」
わたしは宝物を黒髪と背中の間に忍ばせながら、あなたについて訊ねる。もちろん慌てたオイディプス、指はあらぬ方向を差しながら。
「ああ、ちょっと調子が悪いみたいでベッドで寝てるよ。ちょうど今看病してたんだ」
「そう」
「そう。そ、それより瑠璃、服を着ないで部屋を出ちゃダメって言ったばかりじゃないか。ほら、行こう、僕が着させ」
「お兄ちゃん」とわたしは言い、それから意地の悪い笑みを浮かべた。
「わたし、本当は全部知ってるのよ?」
「……何を?」
「二人のこと! えっへん!」
たちまちオイディプスが絶句した、その間隙をわたしは見逃さない。媚びた声で寄り添い、片手を胸に這わすわたし、小悪魔の王明らかよね?
「でもね、わたしっ、お兄ちゃんのこと実は愛してたの……! だからね、今日からはわたしも混ぜて? 三人でしましょうよ、ねーえ?」
するとオイディプスは呆然としたマスクからたちまち狡猾を覗かせた。
「……そうか。やっぱりそうだったのか。いや、僕もそれはずっと思っていた。瑠璃は僕のことを愛してると。となるとあの魔女め、やはり僕を騙していたな。声や顔が瑠璃にそっくりだからわからなかったけれど、時間は常に残酷であり、故に魔法は解けるのだ。僕は勝者で英雄で、そして慈悲溢れたる黄金の勇者。つまりこれからは二人幸せにすることを約束する」
こういうわけのわからないことを宣うオイディプスに、「じゃあ行こう」と手を繋いで促す。
えへへ、騙されているとも知らないでオイディプス嬉しそう。気の触れた騎士のようにわたしをエスコートし、とうとう最後の舞台への扉を開いた。
ベッドの上のあなたは、じっとわたし達を見つめていた。とても悲しそうに。或いは何か達観したように。それに比べ、爛々と光るオイディプスの瞳。
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