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高校一年の冬。確か二月だったと思う。
寒い朝だった。
いつもみたいに駅で待ち合わせて、二人で学校に向かって歩き出したんだ。
「秀ちゃん、鼻息が真っ白で怪獣みたい! 」
操が楽しそうに笑った。
「操だって鼻から煙を出して……」
「何? 」
操が瞳を大きく見開いて俺の答えを待っている。
その間にもわざと大きく鼻で息をして。
(かわいい……)
「ロケットみたい…」
俺は小さな声で言った。
「……… あはははは~!!」
操はバカみたいに笑った。
俺は咄嗟に、なるべく格好いい例えを考えたんだけど……
郵便局の角を曲がり、人通りの少ない裏道に入った時、さっきからの違和感の原因に気が付いた。
「操さぁ、天ぷら食ってきた? 」
「えぇ!?」
操は素っ頓狂な声を上げ、
「ウチは朝から天ぷら食べるようなお大臣じゃないわよ~! 」
足を止めて腹を抱えて笑った。
「そうだよな!?
ウチは今朝もメザシとタクアン
でも操の唇がテカテカしてるからさぁ……」
操は困ったような恥ずかしそうな表情を浮かべ、上目遣いの小さな声で言った。
「これはリップだよ……
秀ちゃん、私達、付き合ってそろそろ半年だよね?」
「う、うん……」
(俺、何かマズい事したのかな? )
「秀ちゃん、キスしよ……」
「……………」
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