第1章

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    「ああ、俺は一人暮らしだから料理する気起きないんだよね」 「そう、なんだ」 「始めようと思ったことあったけど、才能ないみてーだからすぐ諦めたけどな」  無邪気な笑顔を向けられ、鼓動が高鳴った。動悸が早くなったような感じがして、落ち着かない。何となく気付かれたくなくて、水筒からお茶を注いで勢い良く流し込む。 「けほっけほ!」 「おい、大丈夫か?」  …恥ずかしい。 「だ、だいじょ・・・ぶ」  落ち着け落ち着け落ち着け。  むせが止まって、小さく深呼吸する。 「透子は料理得意そうだよな。このハンバーグとかすげえ美味しそう」 「い、いる?」 「あ、わかっちゃった? さんきゅー」  わざとらしく言う彼にぎこちなく箸を差し出せば、嬉しそうに私から箸を受け取るとハンバーグをつまんで口へと運んだ。 「思ったとおり美味いな」  何故か得意気に話す彼につられて私も 笑う。 「やっと笑ったか」  驚いて彼を見ると、優しげな眼差しがそこにはあった。  なんだろ。  嬉しい。    
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