第1章

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   そこまでは良かったのだが。     「・・・結局ちゃんと断われなかった」  学校の帰り道電車の窓から見える流れる景色を眺めながら情けなくて深くため息をついた。  断わる以前にすっかり忘れてしまっていたのだが、それ程あの時間がただただ楽しかった。初めての友達が出来たような感覚で、当り障りない話だったけど気まずくならなかったのは彼が聞き上手だったからなのかもしれない。そんな彼の口からも昨日の話は出ることはなかった。  もしかしたら他に彼女役を見つけたのだろうか。それとも警戒した私に話すのをやめただけなのか。  いや昨日はたまたま追いかけられただけで、被害なんて実際はあんまりないのかな?  彼女役どうしよう。このままスルーでいいのかな。 「そういや恭子。最近好きな人とはどんな感じなの? 進展した?」  聞き覚えがある名前に振り返ると、後ろに自分と同じセーラ服を身にまとった小柄な女の子と他校のブレザーを着ている背の高いスレンダーな女の子がいた。  幸い私に背を向けていて、私が振り返ったことには気付いてないみたいだ。  びっくりした。  あの時顔は見えなかったが、制服からして小柄の子が〝恭子ちゃん〟だろう。初めて見るが、可愛らしい容姿をもっている。とても彼の言うストーカーには見えない。 「告白したんだけどね? 振られちゃった」 「そっかー、振られたかー」 「うん。でも諦めてないの! とりあえず恭子のこと知ってもらえたし? 諦めるからちゅーして?ってせがんだら逃げられちゃったけど」  えっ!? キス!?  爆弾発言する彼女に、スレンダーの女の子は、超肉食系じゃん!と周りも気にせず大きい声で笑い出した。 「てか笹倉くんは何のバイトしてんの?」 「○○駅の近くにパン屋があるんだけどね? そこの厨房で働いてるの。店内からは、ちょっとしか見えないんだけどね。でも毎日通ってるんだ」 「へー健気だねー!」 「前まではなかなか話せなかったけど告白もしちゃったし、積極的に攻めてったらこれから好きになるかもしれないでしょ?」 「すっごい前向き! 振られても全然落ち込んでないじゃん」 「欲しいものは手に入るまで諦めない主義なの」 「流石恭子!」  ケラケラと笑い声をあげる女の子達とは反対にただただ驚く私。  彼が言ってたこと本当だったんだ・・・。  
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