第1章

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            現在、19時01分。  街灯がちらほらとしかない住宅街にひっそりと佇むパン屋。古風な民家が並んでいるこの場所では明らかに浮いているレンガ調の壁に赤い屋根が特徴的な店舗からは明かりはもう消えていて、事務所なのだろうか二階の明かりだけがついている。  そのパン屋をパン屋からちょっと離れた十字路の対角線上にある家の角から私は覗いている。  例の彼女はというと意外にもまだ姿を表していない。  私がたどり着いたのはついさっきで、開店中に接触されたらまずいと思っていたがそんな心配はいらなかったようだ。  彼女自身警戒されているため閉店後に姿を現した方が笹倉君も油断してるだろう。  見たところそんな彼も隣の小さな駐車場側にある裏口からは出てくる様子はなく、まだのようだ。  …ふぅ。どうやらまだ大丈夫みたいだ。  ホッと一息をつくのも束の間。  静かな住宅街に響きわたるコツコツと音を立てるヒール。  私のいる十字路の真正面から携帯をいじりながら歩いてくる女の子。  もしかして恭子ちゃん…?  心臓がバクバクと音を立てる。今逃げたら怪しまれる。でも身を隠す場所もない。  徐々に近づいてくる彼女に私は身動き1つとれず立ち尽くすしかなかった。  また味わうこの感覚。このままでは見つかってしまうのに。  どうしよう! 動けない!  せめて顔だけでも逸らせればいいのに何故か金縛りにあったかのように視線を外せないままでいる。  ヒールの音がまるで終わりを知らせるカウントダウンのように響きわたる。  ってあれ?  パン屋とは反対側に曲がって歩いていく。立ち止まる気配もなく進んでいく彼女の後ろを男の人が待て! 美香!と泣きながら追い掛けていた。  なんだ全然違う人じゃん。  無駄な緊張感はなんだったのか。てか私はまだやましいことは何一つしていない。ここに留まっていることは怪しいが何とでも言い訳はできる。  気の小ささに自分でもアホらしくて笑いそうになっていると後ろから私の前を通り過ぎる一人の女の子。  思わず声をあげそうになった。  恭子ちゃん…!?
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