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私を捉える手に力が入ったのがわかった。
この人から逃げてるのか。
冷静に考えるも、あまりに密着しているせいで背中から彼の鼓動が伝わってシンクロするかのように私も早くなって頭まで駆け巡る。私は全く関係ないはずなのに、一緒になって逃げているかのようなそんな感覚に陥る。
?? さっきまで騒がしかった足跡は静かになり、まるでカウントダウンのように迫ってくる。
とこ。
とこ。
近づく足音が私達がいる準備室の前で止まった。
見つかるっ!?
「あ、恭子! こんなとこにいた! 先生に呼ばれてたよ!」
「…わかった。ありがと!」
扉を介して聞こえてきた声が消え、追っていたのであろう彼女はあっさり諦めたのか足音が遠ざかっていった。再び静けさが戻る。
安堵の溜め息を同時にもらした。お互い自然と顔を見合わせる。
「悪かったな」
口を塞いでいた手から解放され、頭をポンポンと撫でられる。
不意に見せられた笑顔に鼓動が高鳴る。
すごい綺麗。
睫毛の長い大きな瞳に吸い込まれそう。
「あ、すみませんっ!」
思わず見とれてしまい慌てて立ち上がる。
変な女だと思われんたんじゃないかと不安になり、恥ずかしい。
「いや俺の方こそ」
気にしていないのか彼も立ち上がり、ズボンに着いた埃を払った。
「いえ!」
「俺笹倉隆弘。アンタは?」
「こ、高坂透子です」
「んで、透子は何してんの? こんなとことで。…ん?」
・・・いきなり呼び捨て?
初対面だよね、と戸惑いを覚えて気を取られていると、足元に落ちていた本に気付いた彼はそれに手を伸ばしていた。
「あっ! それはっ!」
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