第1章

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     台風のように私の心を乱していった彼とはその後一度も会うことはなく、私は帰路についた。  …何だったんだろう。  オートロックを開け、エレベーターのボタンを押す。1階と表示されていたエレベーターはすぐにドアを開き、中へと入る。11階のボタンを押して、ドアを閉める。  チン、と高い音を鳴らして開いたドアから出ると、角部屋である自分の家まで直行した。  ガチャリ、と鍵を開けてドアを開く。物静かで薄暗い家の廊下が見える。  今日もいないのか・・・。  私には3つ離れている姉がいて、その姉と二人暮らしをしている。芸能関係で働いている姉は仕事が上手く行っているためか夜中に帰ってきたり、帰ってこなかったりと家を空けることが多い。  なので炊事洗濯などのすべての家事は私がこなしている。元々先に上京していた姉に頼み込んで同居させてもらっていて家賃などの生活費など諸々全て姉が支払っている。  本当はバイトでもしてお金を入れようと思っていたが、姉に断られてしまった。バイトするよりも高校生活を楽しみなさい、と逆に説教までされた。  でも高校生にはお金は必要よね、と毎月多いくらいのお小遣いまでくれる。そこまでしてもらうのは、と断っても聞かなくて、結局は私の口座に振り込まれている。そんなどこまでも優しい姉に頭が上がらないほど私は感謝をしていて、尊敬している。  恵まれていることはわかっている。ただ寂しい、とは思っていけない。  私の勝手な感情で多忙の姉を困らせてはいけない。それが私の中での揺るが無い決意。  頭ではわかっている。実際行動もしている。でも本音は別だ。  寂しい。  今日の出来事を相談したい。  友達でもいれば、その悩みも解決するだろうが生憎まだ友達と呼べる人はいない。私にとって現在身近な存在なのは姉ただ一人だ。    
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