告白

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こじんまりとした店の入り口には、目印となるドイツ国旗と重厚感ある鉄の扉。 30年以上前からここに在るドイツ料理店のその扉を開けると、店内はレンガ調の壁と存在感のある暖炉がレトロな雰囲気を醸し出し。その止まった時を知らない世代の私であっても、妙に落ち着きを感じる。 ビールグラスから一旦口を離し、唇に付着した泡を指でさり気無く拭き取り、グラス内の気泡を眺め満足気な笑みを浮かべる私。 「安藤さん、そのビール美味しいでしょ~。普通のビールと黒ビールが半分ずつ入ってるの。この店の人気ビールなのよ」 再びグラスを口に運ぶ私の横で、香川さんが嬉しそうに目を細めた。 普通と黒の半分半分…だからメニューの名前もハーフハーフ… なるほど!そのまんまだ!と、心の内でツッコミを入れつつ。 白のさっぱりと、黒のほろ苦さで作られた絶妙なコクを味わいながら、 「ホントに美味しい!普段飲んでる発泡酒とは比べ物にならない!」 心の底から歓喜の声を上げ、満面の笑みを放った。 今夜の集いは、何だかんだでそれぞれの都合がつかず結局2月上旬に実現した新年会。 「あのな~。おまえがいつも飲んでる128円の発泡酒と、有名店の本場ドイツビールを比べんなっ!他の客に聞かれたら恥ずかしいだろ!」 「えっ?そう?…私は別に恥ずかしくないけど」 「一緒にいる俺たちが恥ずかしいっつーのっ!しかも、店に対して失礼極まりない」 私の正面に座る深津さんが、呆気にとられて二の句が継げないと言わんばかりの顔をして、大きなため息をついた。 なによっ、そんなに恥ずかしい恥ずかしい言わなくたっていいじゃん! 関係のない深津さんを飲み会に便乗させてあげたんだから、もっと感謝してくれても良いじゃないの? 香川さんと二人きりにならないための、「クッション及びカモフラージュ」と都合よく利用しようとしていた身勝手は、さて置いて。 私は口に含んだビールをゴクンと飲み込み、 「…はい、恥ずかしい女で失礼致しました」 香川さんと深津さんが連れて来た職場の友人の手前、取り敢えずしおらしさを見せて、ぺこりと会釈をした。
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