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ーーーー頬に落ちる水滴で目が覚める。
ゆっくりと顔を上げると、肉塊と化した社員がくたびれた人形のように転がっていた。
顔に落ちていた水滴はお茶やジュースなどではなく、斜め上で白目を剥いて息絶えている宮永の血液だったようだ。
バス中に充満する鉄臭い血の匂いのせいで、目視で確認するまで気づけなかった。
俺は込み上げてくる酸っぱいモノを我慢できずにその場で嘔吐した。
肩を大きく揺らしながら息をする。
それと同時に、自分の身体が五体満足化どうかを足の先から確認する。
どうやら腕と太ももにガラスで切ったと思われる切り傷があるくらいで、他は特に問題は無さそうだ。
自分の身体を確認して初めて、バスが横転している事に気づく。
目線を上げると、大きく割れた窓とタイヤが見える。
日が沈みかけているのか、バスの車内に射し込む光は赤に近いオレンジ色だった。
『俺は生きている』
それが理解出来たと同時に込み上げてくるのは喜びではなく、虚無感だった。
気絶してから、どれくらい時間が経ったのだろうか。
とりあえず生存者を探すことが先決だと思った俺は、すぐ隣に居たはずの昇平の姿から探し始める。
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