第1章

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 何事もなく朝は来て、あたしは目覚めた。目覚ましが鳴る前に目覚めて、鳴って、止める。  あたしはのそりと起き上がり、ベッドに座り込んだ。  やっぱりこんな考えはいけない。 雅也に近づいちゃいけない。どれだけ沢山の人にあたしは助けられたんだ。 あれは恐怖の7年間だったんだ。忘れちゃいけない、どれだけ自分が逃げ出したかったかを。 何度あのロープを引きちぎり、あの足の鎖を、足さえももいでしまいたかったかを。 ほら、思い出せば簡単に、彼に敵意を抱けるのだ。 彼の心情など、考えてはいけないのだ。  今日高校から帰宅したら、旅行カバンを片付けよう。 馬鹿な事を考えた。過ちを犯すところだった。 昨夜雅也が来なくって、本当によかった・・・。 あたしはベッドから立ち上がると、静かに窓を閉めた。 来ないでね・・・雅也・・・。 そんな思いを込めた。   朝にシャワーを浴びて、ママがどうしてもどうしてもと言うから軽食を摂った。 食パンと目玉焼き。胸が一杯だ。着替えた制服を今すぐ脱ぎたいような満腹感に襲われながら、  ママの車に乗り込む。  送迎付きの高校生活。あの生活に戻らないためには仕方のないことだけど、何か拘束感を感じる。 いつになったら普通の生活に戻れるのだろう。  ふと、ママに聞いた。 「ねぇママ、引越しの話しはパパとしたの?」  運転をしながらママが返してくる。 「したわよ。引っ越すなら、遠くがいいって今は話しあってるわ」 「・・・遠く?」 「そうよ。だから毬奈も転校することになっちゃうけど・・・だけど・・・もしそうなっても、安全な場所で安心してお友達と遊べるほうがママはいいと思うわ」 「・・・・・・。・・・そうね」  入学したばかりでやっと友達ができていきなり転校か。 でも、ママの言う事が間違ってないから言い返せない。 千夏と俊太に言っておこうかな。きっと引越しは実現するだろうし・・・。 そう、これだけの大きな事件なんだよ。昨日のあたし、馬鹿。 自分の本音もイマイチわからず、その時の衝動であっちこっちに動いてる。 こんなのはいけない。 「・・・静かな田舎がいいな・・・」  あたしはぽつりとつぶやいた。ママが一瞬あたしを見て、それから再び前を見る。 「そうね。環境が良いところがいいとは、パパとも話し合ってたの。自然があって・・・食べ物がおいしいところよ!」
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